国立感染症研究所 感染症情報センター
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急性脳炎


急性脳炎(03年11月5日〜05年10月27日報告分)


急性脳炎は2003年11月5日施行の感染症法改正によって、基幹定点(全国約500カ所の病院)からの報告による定点把握疾患から、五類感染症の全数把握疾患に変更され、診断したすべての医師は、診断から7日以内に届け出ることが義務づけられている。届け出の対象は、四類感染症として全数把握されるウエストナイル脳炎と日本脳炎を除き、それ以外の病原体によるもの、および病原体不明のものである。また、炎症所見が明らかでなくとも、同様の症状を呈する脳症も含まれる。当初、インフルエンザ脳炎や麻しん脳炎など、原疾患が届け出対象である場合は除くと解釈されていたが、厚生科学審議会感染症分化会の審議を経て、2004年3月1日以降はこれらも届け出の対象となった。なお、届け出の時点で病原体不明なものについては、可能な限り病原体診断を行い、明らかになった場合には追加で報告することが求められている。

2003年11月5日〜2005年10月27日の約2年間に報告された急性脳炎は、337例であった。都道府県別では、秋田県(37例)、山形県(24例)、東京都(23例)、新潟県(22例)、大阪府(20例)、福岡県(20例)が多かった(図1)。一方、この期間1例の報告もない都道府県が5県(徳島県、香川県、高知県、大分県、宮崎県)認められた。
図1. 急性脳炎の都道府県別報告数(2003年11月5日〜2005年10月27日報告分)
性別では男性186例(55%)、女性151例(45%)で、年齢別では0歳(6カ月)〜93歳にわたり、中央値は31歳であった(図2)。このうち、16歳未満は139例(41%)(男性74例、女性65例)で、特に7歳以下が118例(全体の35%、16歳未満の85%)と多かった。16歳以上は198例(59%)(男性112例、女性86例)であった。
図2. 急性脳炎の性別・年齢群別報告数(2003年11月5日〜2005年10月27日報告分)
16歳未満の139例について発症月別にみると、特に2005年2月および3月が多く、その病原体の大半がインフルエンザウイルスであった(図3a)。139例の病原体別では、病原体名の報告されたものは80例で、そのうちインフルエンザウイルスによるものが50例で最も多く、型別ではA型23例、B型23例、A型およびB型1例、型不明2例であった。次いで、HHV-6 6例、アデノウイルス4例、ロタウイルス4例などであった。病原体不明のものは59例で、42%を占めた。
図3. 急性脳炎の発症月別病原体

16歳以上の194例(発病月が不明の4例を除く)について発症月別にみると、2004年9〜11月に著しく多く、その病原体はほとんどが不明であった(図3b)。この3カ月間の報告数の60%が秋田県、山形県、新潟県の3県からの報告であり、スギヒラタケ関連疑いの脳炎・脳症発生の影響と考えられた。194例の病原体別では、病原体名の報告されたものは52例で、単純ヘルペスウイルスが23例と最も多かった。病原体不明のものは142例で、73%を占めた。発症月が不明の4例の病原体は全て不明であった。

予後については、届け出以降に追加報告のあったものを含めて、死亡の報告が47例(14%)であった。このうち、16歳未満は18例であり、性別では男性5例、女性13例で、年齢別では1歳3例、2〜5歳10例、6〜10歳3例、11〜15歳2例であった。それらの病原体は、インフルエンザウイルス7例、アデノウイルス42型1例、コクサッキーウイルスA6型1例、ロタウイルス1例、不明8例であった。16歳以上の死亡例は29例で、性別では男性14例、女性15例、年齢別では16〜19歳1例、20代3例、30代1例、40代2例、50代5例、60代7例、70代7例、80代3例であった。それらの病原体は、インフルエンザウイルス3例(60代2例、80代1例)、麻しんウイルス1例(20代)、単純ヘルペスウイルス1例(70代)、不明が24例であった。

この様に、近年問題となっているインフルエンザ脳症やエンテロウイルス71型による重篤な脳炎のみならず、麻しん脳炎などワクチン接種によって予防可能な疾患による死亡例や、地域的な急性脳炎の集積事例などの公衆衛生上の対応を必要とする事例が経験された。

また、この約2年間に1例の報告もない都道府県があることなどから、未報告の症例が多く存在することが推測される。急性脳炎が届出対象疾患であることを、一層周知徹底することが必要である。

病原体については不明が半数以上を占めていた。病原体の特定は診療現場における早期診断・治療や、ワクチン接種などによる予防対策に非常に重要であるので、特に集団発生など公衆衛生上重要と判断される場合においては、医療機関と行政機関の協力によって、より積極的な病原体検索を実施することが望まれる。

感染症発生動向調査週報 IDWR 2006年第2号に掲載)


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